クレーン会社に問い合わせるとき、
「この荷物なら何tのクレーンを頼めばいいんだろう?」
と迷う人は多いと思います。
例えば5tの機械を吊りたいから、
「16tクレーンなら十分かな?」
と思うかもしれません。
でも実際のクレーン選びは、そんなに単純ではありません。
同じ5tの荷物でも、クレーンのすぐ近くで吊るのか、10m、20m先で吊るのかによって必要なクレーンは変わります。
さらに建物の高さ、クレーンの設置場所、地盤、進入ルートなども関係します。
今回は、僕が普段どのようにクレーンを選定しているのか、実際に経験した現場も交えて書いてみます。
まず確認するのは「重さ・高さ・作業半径」
お客さんから、
「何tのクレーンを頼めばいい?」
と聞かれたとき、僕がまず確認するのは、
吊り荷の重さ・建物の高さ・作業半径
です。
この3つはかなり重要です。
特に勘違いされやすいのが、吊り荷の重量だけでクレーンを選んでしまうことです。
例えば5tの荷物だからといって、
「5t以上吊れるクレーンなら何でもいい」
というわけではありません。
クレーンは作業半径が伸びれば、吊れる重量が変わります。
作業半径とは何なのか、どこからどこまでを測るのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
さらに建物が高ければ、ブームの長さや角度も考えなければなりません。
「5tの機械だから16tで平気でしょ」と言われた現場
以前、お客さんから、
「5tの機械の揚重なんだけど、目の前だから16tで平気でしょ」
と言われたことがあります。
ところが実際に確認してみると、作業半径は10m以上ありました。
お客さんからすると「目の前」でも、クレーンで考える距離は感覚的な距離ではありません。
作業半径は、基本的にクレーンの旋回中心からフックまでの水平距離で考えます。
その条件で性能表を確認すると、16tクレーンでは2.5t程度しか吊れない条件でした。
5tの機械を吊ることはできません。
そこでお客さんに性能表を見せながら、
「この距離だと16tでは5tは吊れません」
と説明しました。
最終的には25tクレーンへ変更しました。
するとお客さんから、
「16tクレーンっていうくらいだから、なんとなく10tくらいは吊れると思ってた(笑)」
と言われました。
クレーンを普段扱わない人なら、そう思ってしまうのも分かります。
でも、クレーンについている「16t」「25t」という数字だけを見て、実際の現場で吊れる重量を判断することはできません。
100kgの荷物でも大きなクレーンが必要になる
反対に、
「荷物が軽いから小さいクレーンでいい」
とも限りません。
例えば吊り荷が100kg程度しかなかったとしても、建物に高さがあり、さらに建物の奥まで荷物を持っていかなければならない現場があります。
重量だけなら小さいクレーンでも十分です。
でも、高さと奥行きがあることでブームの長さなどが必要になり、条件がまったく変わってきます。
僕自身、重量だけなら余裕で吊れるのに、高さや奥行きの関係で、一つ上どころか二つ、三つ上のクラスまで大きくして選定したことが何度もあります。
クレーン選びでは、
「何kg吊るのか」
だけではなく、
「どの高さを越えて、どこまで持っていくのか」
まで考える必要があります。
「現調はいらない。一番小さいクレーンで来て」と言われた結果
以前、個人のお客さんから会社に電話がありました。
そのお客さんから、
「俺はクレーンに詳しいから現調はいらない。ベランダから資材を一つ下ろしたいから、一番小さいクレーンで来てくれ」
と言われました。
そこまで言うので、当日は一番小さいクレーンで現場へ向かいました。
ところが到着してみると、クレーンをセットする予定の駐車場に車が停まっていました。
これではクレーンをセットできません。
そして実際に下ろしたいという資材を見てみると、おそらく60kgくらい。
最終的には、なんとお客さんと僕の二人で手で下ろしました(笑)。
かなり特殊な例ですが、これもクレーン選びでは能力だけを見ればいいわけではない、という話です。
どれだけ吊れる能力があっても、クレーンをセットできなければ作業はできません。
ギリギリ吊れるクレーンは僕なら選ばない
性能表を確認して、
「計算上はこのクレーンでギリギリ吊れる」
となったとしても、僕は基本的にギリギリでは選定しません。
僕なら一つ上のクレーンを提案します。
なぜなら、現調したときと当日の条件が完全に同じになるとは限らないからです。
例えば予定していたセット場所に車や資材があって、クレーンを少し後ろへ下げなければならなくなるかもしれません。
1m、2mとクレーンが下がれば、作業半径も伸びます。
ギリギリの能力で計画していたら、それだけで吊れなくなる可能性があります。
だからお客さんには、
「小さいクレーンでギリギリに計画して、当日条件が変わると作業できなくなる可能性があります」
というリスクも説明します。
僕は、
「ギリギリ吊れるか」ではなく、「当日多少条件が変わっても作業できるか」
まで考えて選定するようにしています。
それでも小さいクレーンでやりたいと言われたら
もちろん、お客さんにも予算があります。
一つ上のクレーンにすれば、料金が変わることもあります。
そのため、
「できるだけ小さいクレーンでやってほしい」
と言われることもあります。
性能表などを確認して、安全な範囲で作業できるのであれば、小さいクレーンで向かうこともあります。
ただし、その場合は事前に説明します。
「聞いていた重量より実際の荷物が重かった場合」
「予定していた設置場所からクレーンが下がった場合」
こういった条件のズレがあると、そのクレーンでは作業できなくなる可能性があります。
そこまで説明したうえで、
「それでもよろしければ、このクレーンで向かいます」
と伝えます。
安いから小さいクレーン。
心配だから何でも大きいクレーン。
どちらでもありません。
安全に作業できることを前提に、どこまで余裕を持たせるか。
そこが重要だと思います。
「3tくらい」と聞いていた石が実際には6tだった
吊り荷の重量について、今でも印象に残っている現場があります。
海外から運ばれてくる石を揚重する仕事でした。
事前に重量を確認すると、
「大袈裟に言って3tくらい。実際には2tちょっとだと思うよ」
と言われました。
ところが当日、運ばれてきた石を見た瞬間、
「これ、絶対3tじゃないだろう」
と思いました。
実際に確認すると、重量は6tありました。
聞いていた重量の約2倍です。
そのときは、
「2倍も違うのか……。これじゃできないじゃん」
と思いました。
周りからは「作業できないの?」という感じで言われましたが、こちらは事前に聞いていた重量をもとにクレーンを選定しています。
そのことを説明して納得してもらい、その日は作業せず、後日大きなクレーンで作業しました。
代わりに手配したクレーンの費用もしっかりいただきました。
この経験から、特に石などの自然物の重量を感覚だけで判断するのは危ないと思うようになりました。
もちろん、正確な重量を調べて伝えてくれるお客さんもいます。
ただ、
「たぶん2tくらい」
という重量と、
「資料上2tです」
という重量では、クレーンを選定する側からすると意味が違います。
大きいクレーンにすれば全部解決するわけでもない
ここまで読むと、
「だったら最初から大きいクレーンを呼べばいいじゃん」
と思うかもしれません。
でも、それも簡単ではありません。
大きなクレーンほど、現場への進入や設置に必要なスペースなどの条件が厳しくなる場合があります。
以前、機械を揚重する現場で、本来ならもっと大きなクレーンを使いたい条件だったことがあります。
ところが、大きなクレーンでは現場まで入れませんでした。
そこで25tクレーンで作業できる方法を考えました。
完成した状態の機械をそのまま持ってきてもらうのではなく、機械を分割した状態で搬入してもらいました。
それぞれを25tクレーンで揚重し、最後に工場の中で組み立ててもらう方法に変更しました。
大きなクレーンが使えないなら、
吊り荷を軽くできないか。
分割できないか。
セット場所を変えられないか。
など、別の方法を考えることもあります。
現調なしでもクレーンを選定できる場合はある
すべての仕事で必ず現調へ行かなければならないわけではありません。
例えば、
・クレーンを設置する場所が十分に広い
・地盤の状態が確認できている
・建物の高さが正確に分かっている
・建物からクレーンまでの距離が正確に分かっている
・吊り荷の重量が分かっている
こういった情報がきちんとそろっていれば、現調なしでもクレーンを選定できる場合があります。
さらに現場の写真があれば、送ってもらいます。
逆に、
「重さはたぶんこれくらい」
「距離はそんなにないと思う」
「クレーンはたぶん置ける」
という情報だけでは、簡単にクレーンを決めたくありません。
数字と現場条件が正確に分かることが重要です。
不安要素が一つでもあれば現調へ行く
お客さんから情報や写真を送ってもらっても、
「この距離、本当に大丈夫かな」
「ここにクレーンをセットできるかな」
「地盤は大丈夫かな」
など、不安要素が残ることがあります。
その場合は現調へ行きます。
現場が県外などで僕たちが簡単に見に行けない場所であれば、その地域のクレーン屋さんに現場を見てもらうこともあります。
クレーンを知らないお客さんが、自分で完璧にクレーンを選ぶ必要はないと思っています。
必要な情報を教えてもらって、現場条件を確認して、
「この現場なら何tクレーンが必要なのか」
を判断するのは、僕たちクレーン屋の仕事です。
まとめ|「5tの荷物だから○tクレーン」では決められない
「何tのクレーンを頼めばいいですか?」
という質問に対して、
吊り荷の重量だけでは答えられません。
僕がまず確認するのは、
重さ・高さ・作業半径。
さらに、
進入ルート・設置場所・地盤・障害物などの現場条件も見ます。
5tの機械でも、距離があれば16tクレーンでは吊れないことがあります。
逆に100kg程度の荷物でも、高さと奥行きによっては何クラスも大きなクレーンが必要になることがあります。
そして、大きなクレーンが必要でも、現場に入れなければ使えません。
そんなときは荷物を分割するなど、別の方法を考えることもあります。
だから、
「何tを呼べばいいのか分からない」
という場合は、無理に自分で決めなくて大丈夫です。
まずは、
吊り荷の正確な重量、建物の高さ、距離、設置場所の状況。
分かれば現場の写真。
それらをクレーン屋さんに伝えて相談するのが一番だと思います。
そして僕自身、クレーンを選定するときに大切にしているのは、
「ギリギリ吊れるクレーンを選ぶ」のではなく、「当日、安全に作業を終えられるクレーンを選ぶ」こと。
何tのクレーンを選ぶか。
その判断も、クレーン屋の大切な仕事の一つだと思っています。



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