クレーンの仕事をしていると、毎日のように出てくる言葉があります。
それが「作業半径」です。
クレーンを知らない人から、
「作業半径って何?」
と聞かれたら、僕はまず、
「クレーンの旋回中心からフックまでの距離だよ」
と説明します。
この作業半径は、クレーンがどれくらいの重量を吊れるのかを考えるうえで、とても重要です。
今回は現役のクレーンオペレーターである僕が、作業半径とは何なのか、実際の現場でどのように考えているのかを紹介します。
作業半径とは?
作業半径とは、簡単にいうとクレーンの旋回中心からフックまでの水平距離です。
例えば同じ1tの荷物を吊る場合でも、クレーンのすぐ近くで吊るのと、遠く離れた場所で吊るのでは条件が違います。
基本的に作業半径が大きくなるほど、クレーンが吊れる重量は小さくなっていきます。
「同じクレーンなのに、なんで?」
と思うかもしれません。
人間の腕で考えると分かりやすい
僕はこれも人間に例えて説明します。
重い物を持つとき、体の近くで持つのと、腕をいっぱいに伸ばして持つのでは、持てる重さが違いますよね。
腕を伸ばした状態で重い物を持つ方が大変です。
クレーンもイメージとしては同じです。
フックが旋回中心から遠くなって作業半径が大きくなるほど、吊れる重量は小さくなります。
だからクレーンの仕事では、
「何tの物を吊るのか」
だけでは足りません。
「その荷物を何m先で吊るのか」
ここまで分からないと、クレーンを選ぶことができません。
200kgしかないのに、あと2m届かなかった
以前、学校で屋上へ室外機を揚重する現場がありました。
室外機の重量は約200kg。
重量だけ聞けば、それほど重い物ではありません。
ところが実際に作業してみると、
「メインブームでは、あと2m届かない」
という状況になりました。
クレーンはすでにそれ以上建物へ近づけられません。
その現場では、使用していたクレーンの条件を確認したうえで、ジブを使用して必要な作業範囲を確保し、室外機を揚重しました。
現場ではジブのことを**「孫」**と呼ぶこともあります。
たった2m。
でもクレーンの仕事では、その2mが大きな違いになることがあります。
※ジブを使用できる条件や吊り上げ能力は、クレーンの機種や仕様、作業条件などによって異なります。
軽い荷物なら何でも届くわけではない
「200kgなら、大きなクレーンを持ってくれば簡単でしょ?」
と思う人もいるかもしれません。
でも、そう単純ではありません。
例えば高さのあるビルなどでは、建物があるため、ブームを必要な角度まで倒していけないことがあります。
重量だけを見れば余裕で吊れる。
それなのに、フックが目的の場所まで届かない。
そんなことがあります。
クレーンでは、重量・高さ・作業半径など、いろいろな条件を合わせて考える必要があります。
作業半径の確認は現場へ着く前から始まっている
僕が現調へ行くときは、現場に着いていきなりレーザーで距離を測るわけではありません。
まず確認するのは、クレーンが現場までどうやって入っていくのかです。
どのルートを通るのか。
大型車の規制や時間規制はないか。
そして、何tクラスまでのクレーンなら現場へ入っていけるのか。
そこから確認します。
現場に到着したら、図面があれば図面を見て、建物などの高さ、吊り荷の重量、揚重する場所などを確認します。
その後、レーザーを使って実際の高さなどを測り、クレーンをどこにセットするのかを考えます。
セット位置が決まったらクレーンの旋回中心になる位置を出し、そこから揚重場所までの作業半径を確認します。
ここまでやって、
「この場所にこのクレーンをセットして、この荷物を目的の場所まで持っていけるか」
を考えます。
僕は「ギリギリ吊れる」で計画しない
計算してみて、
「このクレーンならギリギリいけそう」
となることがあります。
でも僕は、できるだけギリギリで計画しないようにしています。
現場へ行って、少し条件が変わっただけで作業できなくなってしまったら困るからです。
そして、無理をして作業するわけにもいきません。
余裕がないと判断した場合は、一つ大きなクレーンを提案することもあります。
ただし、大きいクレーンにすればすべて解決するわけでもありません。
クレーンが大きくなれば、
「今度はそのクレーンが現場に入れるのか?」
「その場所にセットできるのか?」
という問題も出てきます。
大きなクレーンをセットできない場合は、セット場所を変えられないか考えたり、揚重する物を分割するなどして軽くできないか確認したりします。
クレーン選びは、単純に大きければいいというものでもありません。
現調では自分なりに余裕を見る
僕の場合、作業半径をピッタリの数字では計画しません。
これは会社や業界で決められている数字ではなく、僕が自分の経験からやっていることですが、実際に測った距離より1.5〜2m程度余裕を見て考えることがあります。
当日何か問題が起きて、予定より1m後ろにクレーンをセットすることになったとします。
ギリギリで計画していたら、その1mで作業できなくなる可能性があるからです。
ただ、クレーンは大きくなれば費用も変わります。
お客様としては、できるだけ必要十分なサイズのクレーンで費用を抑えたいという事情もあります。
だからこそ、現場の条件をできるだけ正確に確認してクレーンを選ぶことが重要だと思っています。
当日、セット場所に車が停まっていた
どれだけ現調をしても、当日その通りになるとは限りません。
以前、マンションで室外機を揚重する現場がありました。
現調ではクレーンをセットする場所を決めていました。
ところが当日行ってみると、
その駐車場所に車が停まっていました。
予定していた位置にクレーンを置くことができず、3〜4mほどずれてしまいました。
幸い、その現場ではほかにも作業する場所があったので、そちらを先に進めることができました。
その間に元請けさんが車の所有者を探してくれて、車を移動してもらい、最終的には予定していた位置から作業することができました。
図面や現調では完璧でも、当日の現場がその通りとは限りません。
だから僕は、最初から少し余裕を持って考えるようにしています。
「2tちょっと」と聞いていた石が、実際は6tだった
作業半径と同じくらい重要なのが、吊り荷の正確な重量です。
以前、海外から大きな石が運ばれてくる現場がありました。
事前には「3tくらい」と聞いていました。
僕が、
「本当に3tですか?」
と確認すると、
「大袈裟に言って3tかな。実際は2tちょっとだと思うよ」
と言われていました。
ところが当日。
運ばれてきた石を見た瞬間、
「これ、絶対3tじゃないだろ……」
と思いました。
実際の重量は、
約6t。
事前に聞いていた重量とは大きく違いました。
当然、その日に用意していたクレーンでは作業できません。
そこで無理に吊ることはせず、その日の揚重は行わず、後日もっと大きなクレーンを用意して作業しました。
最初から正確な重量が分かっていれば、適切なクレーンを手配できます。
でも現場では、こういうこともあります。
だから僕は、
「たぶん○tくらい」
という情報だけで、ギリギリの計画をするのは怖いと思っています。
現場には「透明なクレーン」が見える(笑)
何度も何度も現調をしていると、現場を見ただけで、
「だいたいこのくらいの作業半径だな」
というのは分かるようになってきます。
クレーンをセットする場所を見れば、頭の中ではもうそこにクレーンが置かれています。
僕の感覚では、
その場所に「透明なクレーン」が見えるんです(笑)。
「ここにセットしたらブームはこの辺を通って、フックはこの辺まで来るな」
というイメージが自然とできるようになりました。
これは何度も現場を見て、実際にクレーンをセットしてきた経験から身についた感覚だと思います。
でも、ここが大切です。
絶対に吊れると思う現場でも、僕は必ずきちんと測ります。
経験があるから測らなくてもいい、とは思いません。
「これくらいだろう」でやれるほど、クレーンの仕事は甘くありません。
経験から予想する。
そして最後は、きちんと数字で確認する。
僕はそれを大切にしています。
まとめ|作業半径は「何m先で吊るのか」
作業半径とは、クレーンの旋回中心からフックまでの水平距離です。
言葉だけ聞くと難しそうですが、
体の近くで物を持つのと、腕を伸ばして物を持つのでは違う。
そう考えると、少しイメージしやすいと思います。
クレーンは、
「何t吊れるクレーンなのか」
だけでは仕事が決まりません。
何tの荷物を、どのくらいの高さへ、何m先まで持っていくのか。
さらにクレーンが現場まで入れるのか、実際にセットできるのか。
そこまで確認して初めて、現場で使うクレーンを考えることができます。
僕自身、現場を見れば「このくらいだろう」という感覚はあります。
それでも必ず測ります。
経験を感覚だけで終わらせず、最後は数字で確認する。
それくらい作業半径は、クレーンの仕事にとって大切なものだと思っています。
実際に何tのクレーンを選ぶかは、吊り荷の重さだけではなく、この作業半径や建物の高さなどを含めて判断します。クレーンの大きさをどう選んでいるのかは、こちらの記事で実体験を交えて紹介しています。



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